地球上には10の30乗個以上のバクテリオファージが存在すると推定されています。
その中には人間にとって役に立つバクテリオファージもいれば、好ましくないバクテリオファージもいます。
ここでは人間にとって役に立つバクテリオファージと、好ましくないバクテリオファージの3つの違いについて解説していきます。
違いその1.溶菌性ファージかどうか
バクテリオファージのライフサイクルは大きく2つ(溶菌サイクルと溶原サイクル)に分けることができます。溶菌サイクルでは、溶菌性ファージ(ビルレントファージ)はまず細菌の中に遺伝子だけを注入します。注入された遺伝子は細菌の機能を利用して、新しいバクテリオファージの遺伝子を作ります。バクテリオファージの遺伝子からタンパク質が合成され、それを自らの構成成分に使います。最後にバクテリオファージは細菌を溶かして外に出てきます。
もう一つは、溶原サイクルにおける溶原性ファージ(テンペレートファージ)というものです。
テンペレートファージはまず細菌の中に遺伝子を注入します。溶原性ファージの遺伝子は細菌の遺伝子の中に組み込まれます。そしてファージ由来の遺伝子は細菌の子孫にも受け継がれます。
しかし、紫外線や抗生物質といった外部からの刺激が加わると、溶原性ファージの遺伝子をもとに娘ファージが複製されます。そうなると、溶原性ファージは溶菌性ファージと同様に、最後には菌を溶かして外に出てきます。
溶菌性ファージを製品原料に使う理由は?
ロシアやアメリカで現在販売されている製品で用いられているバクテリオファージは前者の「溶菌性ファージ」というタイプです。なぜなら溶原性ファージの一部は、感染した細菌の遺伝子を取り込み、他の細菌に伝播する性質を持っているからです。もし毒素をコードする遺伝子が伝播されると非病原性の細菌が病原性細菌に変化する危険があります。
一方、溶菌性ファージの場合、溶原性ファージのように感染した細菌の遺伝子を取り込むことはありません。そのため、前者の「溶菌性ファージ」というタイプのみが製品原料として利用されています。
テンペレートファージは役に立たない?
まだ実用化はされていませんが、溶原性ファージを利用した治療法についての研究もなされています。もしかすると近い将来に、これまで製品原料としては見向きもされなかった溶原性ファージが利用される日も来るかもしれません。
違いその2.毒性・病原性のあるゲノムが含まれていないこと
バクテリオファージの中には毒素をコードする遺伝子を持っているものもいます。そういったバクテリオファージは製品原料として使用することはできません。毒性があるかどうかはDNA解析をすることで調べることができます。
違いその3.悪玉菌のみに作用すること
バクテリオファージの中には乳酸菌などの善玉菌に感染してしまうものもいます。そのため、バクテリオファージを製品に加える際には、人間にとって好ましくない細菌のみを攻撃するバクテリオファージかどうかのチェックが必ず行われています。
また、乳酸菌を利用して醤油やヨーグルトを生産している工場は、乳酸菌に感染するバクテリオファージを工場に入れないように細心の注意を払っています。