バクテリオファージとは

【高校生物】ハーシーとチェイスの実験を簡単に解説!|ファージと大腸菌

2019.12.17

高校生物を履修した方の中には「バクテリオファージ(以下ファージ)」という言葉に聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。ここでは高校生物で登場するファージと大腸菌を使った実験について解説したいと思います。

この記事の要点は…

  • ✓実験の背景
  • ✓タンパク質と核酸を別々にラベルする
  • ✓ラベルしたタンパク質と核酸を追跡する
  • ✓コラム:「ハーシーとチェイスの実験」とノーベル賞

実験の背景

高校生物ではファージは「ハーシーとチェイスの実験」という項目の中で登場します。「ハーシー」と「チェイス」はこの実験を行った人の名前です。

ハーシーとチェイスは1952年、遺伝子が何かを突き止めるために、ファージ(T2ファージ)を用いて実験を行いました。

左=ファージ、真ん中=チェイス、右=ハーシー

それまで多くの学者は、遺伝子はタンパク質であると考えていました。ハーシーとチェイスは、ファージはタンパク質でできた殻と核酸のみから成り立っているので、ファージを観察すれば、遺伝子がタンパク質なのか核酸なのかが分かると考えたのです。

タンパク質と核酸を別々にラベルする

ファージを構成するタンパク質と核酸を区別するためにはそれぞれに違う目印を付ける必要があります。

ハーシーとチェイスは目印を付けるに当たって、リンは核酸には存在する一方でタンパク質には存在しないことと、硫黄はタンパク質には存在する一方で核酸には存在しないことに注目しました。

リン硫黄
タンパク質×
核酸×

ハーシーとチェイスはこの現象に注目して、核酸だけに目印として、リンの放射性同位体32P(リン32)を組み込んだファージと、タンパク質だけに目印として、硫黄の放射性同位体35S(硫黄35)を組み込んだファージを準備しました。

32Pも35Sも放射線を発するので、簡単に検出することができます。なので、これらの「目印」をずっと観察していれば、最初に準備したファージの核酸やタンパク質がどこにいったのかを知ることができるのです。

上の図では目印となる放射線を発する物質を赤で記してあります。

ラベルしたタンパク質と核酸を追跡する

次に32Pの目印の付いたファージと35Sの目印の付いたファージを別々の試験管で大腸菌に感染させます。

ファージはまず大腸菌の中に遺伝子だけを注入します。注入された遺伝子は大腸菌の機能を利用して、新しいファージの遺伝子を作ります。ファージの遺伝子からメッセンジャーRNAを経てタンパク質が合成され、それを自らの構成成分に使います。最後にファージは大腸菌を溶かして外に出てきます。

T2ファージの場合ファージが大腸菌に取り付いてから約30分で大腸菌を溶菌し、増えたファージは大腸菌の外に放出されます。

A.32Pの目印の付いたファージの場合

B.35Sの目印が付いたファージの場合

上の図では目印となる放射線を発する物質を赤で記してあります。

Aでは赤い目印(核酸)は大腸菌の中にありますが、Bではラベルしたファージの殻(タンパク質)は大腸菌の外にあります。

ハーシーとチェイスはファージを感染させしばらく経ってから図A,Bに示した①~③の状態の大腸菌を集めました。そして、大腸菌をミキサーで撹拌し、ファージの抜け殻を振るい落としました。

その後、遠心機で大腸菌だけを分離するとAの条件では大腸菌は放射性を示しましたがBの条件では大腸菌は放射性を示しませんでした。ファージの核酸が大腸菌に移行したのです。

ファージの遺伝子は大腸菌の細胞の中に入っているはずなので、この実験を通してファージの遺伝子は32Pで目印を付けられた核酸であることが明らかになりました。

コラム:「ハーシーとチェイスの実験」とノーベル賞

核酸が遺伝子であることを見出したこの実験は画期的であり、この功績によりハーシーは1969年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
一方でチェイスはノーベル賞を受賞していません。チェイスは実験助手で博士号もない女性だったので受賞から外れたのでしょうか。
その当時、研究分野でも女性差別があったようです。

中性子星(パルサー)を一番先に発見した物理学者のジョスリン・ベルも実験助手で博士号がなく、女性であったため彼女に代わり指導教員(教授)が受賞しました。

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