今回はバクテリオファージを利用するに当たって、なぜ複数のファージを組み合わせる必要があるのかについて解説します
- ✓複数のファージを組み合わせる目的は「幅広い菌に対応する」ため
- ✓ファージを組み合わせることでファージ耐性菌の出現を防げる!?
幅広い菌に対応するため
それぞれのファージは特定の範囲の細菌しか退治することができません。
例えば大腸菌をターゲット(宿主)とするファージは大腸菌を退治することができたとしても、アクネ菌には見向きもしません。
しかも大腸菌をターゲットとするファージがあらゆる大腸菌を退治できるというわけではありません。一概に大腸菌といっても実はとても個性豊かなので、1種類の大腸菌ファージだけでこの世の全ての大腸菌に対応できるようにするというのは不可能なのです。
ある程度の種類の大腸菌をカバーできるようにするには、複数の種類の大腸菌ファージを組み合わせる必要があります。
このように複数の種類のファージを組み合わせたもののことを、数種の洋酒やジュースなどを混ぜあわせたカクテルになぞらえて「ファージカクテル」と呼んでいます。
ファージ耐性菌の出現を防ぐため
ファージカクテルを作成することにより、幅広い範囲の細菌に対応できるようになるだけではなく、耐性菌の出現を抑えることができます。
ファージ耐性化の分子機構は様々ですが、多くの場合細菌の目印(ファージレセプター)が変異することで耐性化します。
ファージが細菌に感染する際、ファージは感染する細菌のレセプターに取り憑きます。レセプターに取り憑く器官をリガンドと呼び、ファージの足先に付いています。ファージ耐性菌はレセプターの発現を止めたり、構造を変化させたりすることでファージの結合を回避するのです。
例えば大腸菌O157:H7とファージ(PP01)を長時間培養すると、PP01ファージが感染できないファージ耐性大腸菌O157:H7が出現します。大腸菌O157:H7はPP01ファージのレセプター分子である外膜タンパク質C(OmpC)の遺伝子を欠損することで耐性化するのです。
PP01ファージが存在するときOmpC欠損大腸菌は野生株より優位です。しかしファージがいない環境ではOmpC欠損大腸菌は正常な大腸菌に比べて不利になります。なぜならOmpCの本来の役割である栄養分を培地から吸収する機能を欠損するからです。身を削って耐性化することを「コストを払う」と言います。細菌はコストを払ってファージ耐性化するのです。
ファージによってレセプターは異なります。異なるレセプターを用いる複数のファージ混合液(ファージカクテル)を用いると細菌は多くのコストを払わなければなりません。従ってカクテルに対する耐性化は難しく、成功したとしても多大なコストを払うことになるのでカクテル耐性細菌はひ弱な存在になります。