- ✓バクテリオファージがターゲットにするのは増えすぎた菌だけ!
- ✓細菌もバクテリオファージを全滅させることはできない
- ✓バクテリオファージと細菌は30億年以上互いに適度なバランスを保ってきた
ニキビ原因菌をターゲットとするバクテリオファージは主にニキビを引き起こす細菌に感染します。
ただニキビ原因菌の中には菌バランスが崩れない限りニキビを引き起こさず、逆に人の肌を守ってくれている菌もいます。
そのため、「バクテリオファージがニキビ原因菌を全滅させてしまうと、悪い影響があるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
実はバクテリオファージはターゲットとする菌を全滅させることはありません。
ここではバクテリオファージが悪玉菌を全滅させることなく、どのように菌バランスを整えてくれているのかについて説明します。
バクテリオファージがターゲットにするのは増えすぎた菌だけ!
バクテリオファージはターゲットとする菌を全滅させることはできません。
バクテリオファージは細菌の密度が低下すると細菌に感染しにくくなります。これは、ファージが細菌と巡り合う確率が低下するからです。
自然界では何らかの理由で突発的に数が増えた細菌があると、バクテリオファージが細菌に感染しやすくなります。
つまり、バクテリオファージは増えすぎた細菌を溶菌することで細菌のバランスを整える役目を担っているのです。 このようなことを考えると、バクテリオファージは菌のバランスをちょうど良い状態に整えてくれる自然界のモデレーターということができるでしょう。
細菌もバクテリオファージを全滅させることはできない
細菌側も細菌側で常にバクテリオファージ対策を行っている訳ではありません。細菌にとってバクテリオファージ対策を講じることの負担はとても大きいので、バクテリオファージ対策はリスクがある状況でだけ行っています(※詳しくは下のコラムをご覧ください)
このようにバクテリオファージと細菌は30億年以上互いを全滅させることなく、適度なバランスを保ってきたのです。
コラム
細菌とファージを長い時間一緒に培養するとファージが感染できないファージ耐性細菌が出現します。
ファージ耐性化の分子機構は様々ですが、多くの場合細菌の目印(ファージレセプター)が変異することで耐性化します。
ファージが細菌に感染する際、ファージは感染する細菌のレセプターに取り憑きます。レセプターに取り憑く器官をリガンドと呼び、ファージの足先に付いています。ファージ耐性菌はレセプターの発現を止めたり、構造を変化させたりすることでファージの結合を回避するのです。
例えば大腸菌O157:H7とファージ(PP01)を長時間培養すると、PP01ファージが感染できないファージ耐性大腸菌O157:H7が出現します。大腸菌O157:H7はPP01ファージのレセプター分子である外膜タンパク質C(OmpC)の遺伝子を欠損することで耐性化するのです。
PP01ファージが存在するときOmpC欠損大腸菌は野生株より優位です。しかしファージがいない環境ではOmpC欠損大腸菌は正常な大腸菌に比べて不利になります。なぜならOmpCの本来の役割である栄養分を培地から吸収する機能を欠損するからです。身を削って耐性化することを「コストを払う」と言います。細菌はコストを払ってファージ耐性化するのです。
ファージによってレセプターは異なります。異なるレセプターを用いる複数のファージ混合液(ファージカクテル)を用いると細菌は多くのコストを払わなければなりません。従ってカクテルに対する耐性化は難しく、成功したとしても多大なコストを払うことになるのでカクテル耐性細菌はひ弱な存在になります。
Wommack KE, Ravel J, Hill RT, Colwell RR. Hybridization Analysis of Chesapeake Bay virioplankton. Appl. Environ. Microbiol., 1999,65: 241-250.
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