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バクテリオファージの歴史(後)~第二次大戦に「参戦」したファージ

2019.08.15

バクテリオファージの医療分野への利用の試金石となったフィンランド戦争

西側では"あらゆる細菌"に作用する抗生物質の出現によりファージセラピーは忘れ去られてしまいました。

ファージとは

"細菌を退治する?!バクテリオファージの働き"


しかし、ソ連ではファージセラピーに関する研究は引き続き行われました。
トビリシのバクテリオファージ研究所は所長のエリアヴァが粛清されるという悲劇にも持ちこたえ、ファージセラピーの中心となったのでした。

ソビエトで製造されたバクテリオファージが初めて大規模に利用されたのは1938年のことでした。ソ連に隣接するアフガニスタンのいくつかの地域でコレラが流行したことから、感染拡大を防ぐために、国境地域でコレラバクテリオファージを使用することになったのです。

ファージ薬剤は地元の住民に与えられたほか、井戸や貯水池に加えられました。その施策が功を奏して、ソビエト領土ではコレラの症例は1件も報告されることはありませんでした。

バクテリオファージの真の力量が試されたのはフィンランド戦争(1939~1940年)でのことでした。医師チームは戦争で負傷した人々を救うためにトビリシのバクテリオファージ研究所で開発・製造されたバクテリオファージ製剤を使用しました。その結果、医師は半数以上の患者の創部から細菌を除去することに成功しました。

スターリングラードの戦いの『参加者』となったバクテリオファージ

フィンランド戦争で効果が実証されたバクテリオファージは各地の軍病院で使われるようになりました。ソビエト細菌学研究所を基盤として複数の企業が設立されました。それらの企業は第二次大戦中、前線のために20万リットル以上の「負傷者用」バクテリオファージを生産しました。

第二次世界大戦の勝負の分かれ目となった有名なスターリングラードの戦いでの成功の鍵の1つになったのはまさにバクテリオファージでした。 コレラは常に戦闘中の軍隊にとっては避け難い「伴侶」でした。英仏軍は1854-1855年のセヴァストーポリの戦いでは軍事行動により73000人、コレラにより18000人を失っています。

1942年夏、スターリングラード近郊のドイツ軍の拠点にコレラが現れました。敵軍でのコレラの流行はソ連軍にとって諸刃の矢でした。もしコレラの流行をドイツ軍拠点内に抑えることができたのならば戦局を有利に展開することができますが、もしコレラ流行が自軍内でも拡大してしまったら、多くの兵士を失ってしまうことになります。

コレラの流行リスクを評価するためにモスクワ全連合実験医学研究所のジナイーダ・ヴィサリオーノヴナ・エルモリエワ教授がスターリングラードに派遣されました。エルモリエワ教授はバクテリオファージを生産するために地下秘密研究所を組織しました。そしてそこで生産されたバクテリオファージを毎日およそ5万人に投与しました。

1942年末には、スターリン自らがエルモリエワ教授に電話をかけ、次のような質問をしました。「100万人以上の人をスターリングラード近郊に留めておくのは危険だろうか。コレラの流行は司令部の計画を妨げるだろうか」

それに対して細菌学者はこのように答えました。 「私は自分の前線では勝利を勝ち取りました。後は赤軍次第です」

戦後の歴史

第二次大戦後も、そしてソ連が崩壊した後もバクテリオファージの歴史は続きました。

現在、ロシア最大の国営製薬企業の一つであるミクロゲン社は14のバクテリオファージ薬を製造しています。また民間企業であるミクロミル社は4種類のバクテリオファージ入り化粧品を製造しています。

ロシアでは現在毎年10億箱以上のバクテリオファージが使用されています。

近年ロシアでは洪水が発生した際に予防薬としてバクテリオファージが積極的に使用されています。2013年極東地域で洪水が発生した際には、消化管の疾患を引き起こす広範囲の細菌を対象としたバクテリオファージが約7万回分届けられました。 そして2014年にはアルタイ地方とハカシア共和国に8000箱以上のバクテリオファージが出荷されました。

2019年にイルクーツク州で洪水が発生した際にも3000本余りのファージ製品が保健省の備蓄から出されました。


参考文献: А. Н. Дабижева et al.«Под знаком бактериофага: Париж – Тбилиси». Наука из первых рук (2016) том 70, №4
«Фаги атакуют: Отечественная история производства и применения бактериофагов». Наука из первых рук (2016) том 70, №4
«Наводнение в Иркутской области сейчас: стоит ли бояться эпидемии».2019年7月2日付「コムソモーリスカヤ・プラウダ」オンライン.2019年10月28日閲覧。

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