バクテリオファージ辞典|基礎から応用まで

アクネ菌とバクテリオファージの関係|ニキビの原因・最新研究・治療の可能性を解説

2018.03.17

なぜ今“アクネ菌”と“ファージ”が注目されているのか

ニキビの原因菌のひとつであるアクネ菌(Cutibacterium acnes)は、皮膚に存在する常在菌であり、皮脂量の変化や角栓形成・閉塞の悪化によって増殖し、炎症を引き起こします。従来の治療で使用されてきた抗生物質には耐性化の問題があり、 “耐性アクネ菌” が増えていることが報告されています。
その一方で、細菌だけに感染するバクテリオファージ(ファージ)が、アクネ菌を「狙い撃ち」できる存在として関心を集めています。ファージは特定の細菌を標的とし、菌に吸着し、内部で増殖し、溶菌して破壊するという明確な働きをもち、常在菌への影響が限定的とされる点でも注目されています。
この記事では、アクネ菌とファージの最新研究をもとに、ニキビ治療の新しい可能性と未来像をわかりやすく解説します。

アクネ菌とは?常在菌なのにニキビの原因になる理由

アクネ菌(Cutibacterium acnes)は、肌に生息する皮膚常在菌のひとつで、本来は肌を守る役割も担っている菌です。アクネ菌は皮脂を材料にして、肌を弱酸性に保つ物質※を作り、この物質が病原菌の増殖を抑える働きをしています。
一方で、アクネ菌は ニキビ(尋常性ざ瘡)の原因菌としても知られています。
皮脂の分泌が活発になるなどして毛穴が詰まると、アクネ菌が皮脂をエサにして過剰に増殖します。すると、毛穴の内部で増えたアクネ菌などに対抗するため免疫反応が起こり、炎症が生じます。この赤く腫れた状態が「赤ニキビ」です。

※「遊離脂肪酸」 … アクネ菌が分泌する皮脂分解酵素(リパーゼ)によって皮脂が分解され生成される物質。

バクテリオファージとは?狙った細菌だけに感染する“自然界のバランス調整役”

バクテリオファージ(ファージ)とは、細菌だけに感染するウイルスです。
ファージは、脚のような構造についているセンサーを使って、ターゲットとする細菌の目印を探します。そして、ファージはその目印を見つけると細菌に感染します。
細菌に感染したファージは細菌の中で増えて、細菌を溶かしてしまいます。
ターゲットとする細菌がある程度少なくなると、ファージもそれに合わせて少なくなっていきます。

ファージは「ウイルス」と聞くと危険なもののように感じられるかもしれません。ファージは細菌の細胞内で増殖しますが、人の細胞には感染しません。

バクテリオファージは自然界だけでなく、肌や腸といった人間の体にも数多く生息しています。
これまではその役割にあまり注目されてきませんでしたが、近年の研究では、ファージが体内に存在する微生物(細菌)のネットワークを調整する働きを持つ可能性が指摘されており、私たちの健康に密接に関連しているのではないかと考えられています。

アクネ菌とファージの関係:どのように作用するのか

■ 作用メカニズム

アクネ菌や黄色ブドウ球菌などニキビ原因菌をターゲット(宿主)とするファージは、ニキビを引き起こす細菌にだけ感染します。ファージは標的とする細菌の中で増えて、最終的に細菌を溶かして破壊します。

■ 期待される効果

皮脂は皮膚表面のバリアとして働きますが、毛穴が皮脂で詰まると、皮脂をエサにするアクネ菌や表皮ブドウ球菌などが毛穴の中で増殖し、炎症を起こす原因になります。こうしたニキビの発生メカニズムに対して、アクネ菌や表皮ブドウ球菌に感染するファージを含むローションを塗布することでニキビの原因を絶つことができる可能性が示唆されています。

ただニキビ原因菌の中には菌バランスが崩れない限りニキビを引き起こさず、逆に人の肌を守ってくれている菌もいます。
そのため、「ファージがニキビ原因菌を全滅させてしまうと、悪い影響があるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
実はファージは理論上はターゲットとする菌を全滅させることはないとされています。

ファージは細菌の密度が低下すると細菌に感染しにくくなります。これは、ファージが細菌と巡り合う確率が低下するからです。
自然界では何らかの理由で突発的に数が増えた細菌があると、ファージが細菌に感染しやすくなります。
つまり、ファージは増えすぎた細菌を溶かして破壊することで細菌のバランスを整える役目を担っているのです。 このようなことを考えると、ファージは菌のバランスをちょうど良い状態に整えてくれる自然界のバランス調整役(モデレーター)ということができるでしょう。

ファージ療法はニキビ治療として使える?現状と課題

現在世界各国で抗生物質の効かない薬剤耐性菌の拡大が深刻な問題となっています。そんな中でファージを利用した「ファージセラピー(ファージ療法)」は耐性菌との闘いにおける一つの突破口として注目されています。
抗生物質のように広範囲の菌を一律に攻撃するのではなく、原因となる細菌に感染するファージを使ってコントロールするという考え方が、ファージセラピーの基本的な理念です。
一方でファージセラピーには解決すべき問題点がいくつかあります。
その一つに治療に際しファージの選択が難しいことが挙げられます。
ファージは感染する相手を厳密に見分けるため、一種のファージが対応できる細菌は限られます。
原因菌を特定しないと、適切なファージを選択することはできません。
その解決策として、複数種のファージを混ぜたファージカクテルをあらかじめ用意しておくことが考えられます。
それからファージセラピーの制度的社会的受容が求められます。
厚労省がファージを薬剤として承認するためには、制度やルールを含め、社会の中で受け入れられる仕組みづくりが必要と考えられます。

まとめ:アクネ菌とファージ研究がもたらす未来

バクテリオファージ研究は、ニキビ治療に新しい選択肢をもたらす可能性を秘めています。アクネ菌は本来、肌の健康を支える常在菌の一部であり、その働きは「スキンマイクロバイオーム(皮膚微生物叢)」のバランスと密接に関係しています。環境の変化でこのバランスが崩れると、炎症やニキビが生じるため、今後は「菌との共生」や「常在菌バランスを整える」という視点がより重要になっていくでしょう。

ファージは特定の細菌だけに感染するという性質から、アクネ菌が過剰に増えたタイミングでその数を自然に調整する可能性があります。これは、従来の抗生物質のように善玉菌まで減らしてしまうのとは異なり、常在菌生態系を維持しながらアプローチできる点で大きなメリットだと考えられています。

ただし、ファージ療法をニキビ治療薬として実用化するためには、臨床研究の蓄積に加えて、安全性評価や品質管理に関する「ガイドラインがまだ十分に整備されていない」ことが大きな課題です。
こうした制度面の整備が進み、臨床データが蓄積されていくことで、ファージがニキビケアにおける新たな選択肢として普及する未来も期待されています。


参考文献:


Cutibacterium acnes bacteriophage therapy: exploring a new therapeutic approach. (Springer, 2024)


Development of a Topical Bacteriophage Gel Targeting Cutibacterium acnes. (Oxford Academic, Skin Health and Disease, 2024)


Characterisation of the Novel Cutibacterium acnes Phage KIT09 as a Potential Antimicrobial Candidate. (MDPI, IJMS, 2024)


Bacteriophage therapy as a precision intervention for C. acnes dysbiosis. (Our Dermatology Online, 2025)


The immunomodulatory potential of phage therapy to treat acne: a review. (PeerJ)


Development of Phage Therapy for Curing Acne Vulgaris Using Phage PA6. (EMJ, 2023)

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