- ✓大腸菌O157のコントロール
- ✓黄色ブドウ球菌のコントロール~乳房炎を例に
- ✓緑膿菌のコントロール~角膜炎を例に
大腸菌O157のコントロール
バクテリオファージを使った研究の紹介をします。まずは大腸菌O157:H7のコントロール。
15年以上前に行った実験なのですが、畜産試験場からトン糞を提供してもらい、そこの中にO157に感染するファージがどのくらいいるのかということを測りました。1gの大便に4200万もの大腸菌O157に感染するファージがいました。そのファージにPP01という名前をつけました。T4ファージのように頭と胴体から成るファージでした。PP01は同じ大腸菌でもO抗原が157で、H抗原が7番の特別な大腸菌にしか感染しませんでした。ファージの特徴である宿主認識能力が非常に高いということです。
大腸菌に対抗するにはファージも色々揃えないといけないということですね。
そうですね。それがファージセラピーの問題点の一つでもありますね。 下の図は大腸菌O157:H7の顕微鏡写真です。
試験管の中でファージを大腸菌に感染させるとファージが断片化(溶菌)します。マウスを使った実証試験をしたのですが、マウスに大腸菌を経口投与したところ、マウスはファージなんか入れなくても大腸菌O157:H7を速やかに排出するんですね。バクテリアは自分が居心地がいいところにはちゃんと定着し増えるんですけど、居心地の悪いところには定着しないんですね。だから、動物実験でファージの効果を確認することは出来ませんでした。
黄色ブドウ球菌のコントロール~乳房炎を例に
牛は自分たちの排泄物が染み込んだ稲わらの上で寝ます。だから寝ている最中に自分の糞便に存在していた細菌が乳房に感染し炎症(乳房炎)を起こします。また、搾乳する際に、病原菌が乳房に侵入し乳房炎を発症することもあります。 人間なら手間暇かけて治療しますが、牛だったら悲しいことに治療するにはお金がかかるし、病気になった牛から出た牛乳はしばらく出荷できないので、治らない牛は殺します。ですから酪農家にとっては非常に大きな損失になるんですね。 乳房炎を治療するには抗生物質を注入して治すんですが、なかなか治らない。大腸菌による乳房炎は比較的簡単に治るんだけど、黄色ブドウ球菌による乳房炎はなかなか治療することができません。最後には乳房炎に罹ったメス牛を屠殺します。
黄色ブドウ球菌を源乳の中で培養すると上の図のようにぶどうの房状になります。こうなってしまうとなかなか抗生物質が効きません。一方、一般培地で培養すると葡萄の房状にはなりません。牛乳房炎から採取した黄色ブドウ球菌に感染するファージを下水の流入水からスクリーニングし、酪農学園大学の岩野先生に送りました。獣医である岩野先生はそれらのファージが黄色ブドウ球菌に効果があるかマウスを使って実証試験を行いました。
マウスの乳房に非常に細い注射針で黄色ブドウ球菌を注入すると、白い斑点状の炎症を生じます。
ファージを入れない時は見るからに弱ってしまった一方、ファージを入れれば元気になって、この斑点も萎縮していたということです。 その組織を顕微鏡で見たのが下の写真です。
Aは正常細胞、Bは黄色ブドウ球菌で半分壊死した細胞、Cは黄色ブドウ球菌とファージを混ぜて注入したときの写真です。ファージを同時に注入すると細胞が正常に維持されていたということです。実験終了後炎症部を切り取って、その中にどのくらい黄色ブドウ球菌がいたかを調べたところ、ファージを入れた時と入れない時で1万倍の差がありました。
緑膿菌のコントロール~角膜炎を例に
これは別の例で、岩野先生が行った実験です。 競走馬の角膜炎って非常に重要な問題です。先頭を走っている競走馬は問題ありません。二番目、三番目を走っている馬は、先頭を走っている馬が巻き上げた砂埃が目に入って、角膜が傷つきます。そこにバクテリアが感染すると写真のような角膜炎を発症します。
目が見えない馬はレースに出ることができません。競走馬は大変高価なので馬主にとっては大きな問題です。馬を使った実証は難しいのでマウスを用いた実証試験をしました。使用した菌体は緑膿菌です。ファージを投与することで炎症を抑えることができました。
これインパクトありますよね。