この記事の目次
- ✓自己免疫力を高める
- ✓抗生物質の適正使用
- ✓ワンヘルス
自己免疫力を高める
2050年には抗生物質耐性菌は1千万人の死亡原因にもなるという恐ろしい予測ですが、抗生物質耐性菌から身を守るにはどうすればよいでしょうか。
次は抗生物質耐性菌から身を守るということで、2つの項目に分け紹介したいと思います。一つは自分で努力すればある程度コントロールできること、もう一つは社会全体が考えなければならないことです。 最初に自分で努力すればある程度コントロールできることです。 世界中で流行している新型コロナはウイルスです。一方、抗生物質耐性菌はバクテリアです。 ウイルスとバクテリアは異なりますが、防御する対象としては共通性があります。まずは衛生管理。うがいとか手洗いですね。それから自己免疫力を高めること。2020年に肺炎でもって亡くなった方が13.6万人だと言いましたが、その97%以上が65才以上の高齢者です。高齢になると自己免疫力が下がります。自己免疫力が下がるのは一種の老化現象なんで、努力次第で私が中村さんのようになるかというと難しいですね。 自己免疫は大きく3つ(粘膜免疫、自然免疫、獲得免疫)に分けられ、病原菌や病原ウイルスの感染を防ぎます。
我々の体表面は皮膚で覆われています。皮膚は病原菌やウイルスをブロックする非常に強力な防御機能を持っており、病原菌や病原ウイルスが皮膚に付着したくらいじゃ感染しません。皮膚以外のヒト体表面は粘膜に覆われています。目、鼻腔、口は涙、鼻水、唾液によってそれぞれ潤っています。消化管は体内に存在しますが内なる外であり、消化管内部は体外と位置付けられます。消化管である小腸や胃はヒダ構造をしており、タワシのような突起物(微絨毛)によって覆われ、微絨毛表面はさらに粘膜によって覆われています。粘膜にはさまざまな抗菌物質や抗体が分泌されています。例えば唾液だったらラクトフェリン、涙にはリゾチーム、腸管だったら分泌性の免疫グロブリン(IgA)などで、それらは微生物やウイルスを殺傷する能力を持っています。
粘膜のバリアを通過して、血液の中にウイルスや細菌が入ってくると、次に待ち構えているのが自然免疫です。自然免疫とは元々身体に備わっている機能で、マクロファージや好中球が異物を捉え分解します。最後に待ち構えているのが獲得免疫です。獲得免疫とは同じ異物が再び侵入した時に効果的に排除する機能で、ワクチンなどですね。ただし異物であるワクチンを投与してから抗体が出来るまでには時間がかかります。
では抗生物質耐性菌をワクチンで防御することができるでしょうか。
バクテリアに対するワクチンってあまりないですね。あるにはあるのだけれどあまり一般的ではありません。
ではどうすればこの獲得免疫を獲得できるかというと、これは私の持論ですが、私には孫が3人いて、赤ん坊は何でも手で触って口に入れるんですね。間違いなく私の孫は口から雑菌を体内に入れています。そうやって知らず知らずのうちに色んな獲得免疫を得ていると思います。子供のうちはどんどん外で遊んで様々な微生物と接触し、健康なうちに獲得免疫を用意しておくのは非常に重要かなと思います。
自己免疫力を高めるための方法として「バランスのとれた食事、睡眠、適度な運動/睡眠、ストレスの解消」を挙げましたが、これ、日常生活のことだからなかなか気をつけるのは難しいですよね。抗生物質耐性菌に限った話じゃなくて、病気一般の予防について言えることだと思います。
抗生物質の適正使用
もう一つ別な視点から考えてみます。抗菌薬の適正使用についてです。
国立国際医療研究センターのインターネット調査結果がありました。 風邪で受診した人の43%が抗菌薬を処方されました。風邪とは一般にウイルス感染による感染症です。抗菌薬はバクテリアの増殖を抑える効力しか持ちません。従って、ウイルスに対し抗菌薬は全く効果がありません。ただし、肺炎球菌というバクテリアが原因で風邪になる場合もあります。だからちゃんと確定診断し、風邪のの原因が細菌であれば抗菌薬を処方するのは正解です。 それから、風邪の引きはじめはウイルス感染であっても、ずっと風邪が長引くと粘膜免疫力が低下し、細菌が感染しやすくなります。風邪で受診して、2週間たっても治らない場合、抗菌薬を投与するのは私は正解だと思います。 ただお医者さんは確定診断した上で抗菌薬って出さないですよね。
出さないですよね。
多分お医者さんは細菌感染を恐れ、その予防として投薬するんでしょうね。 また、抗菌薬を患者さんに渡せば病院としては収入に繫がり、抗生物質は急性な副作用が少ないので、あまり考えずに投薬する可能性があります。風邪で受診した26.5%の患者が抗菌薬の処方を医者に希望するそうです。インフルエンザを除いて抗ウイルス薬ってないです。インフルエンザじゃないとすると、抗ウイルス薬がないので、対処療法しかないんです。つまり、熱を下げたり、咳を止めたりする薬しかないということです。でも熱が出るとか咳が出るとかいうのは体の自己防御作用です。それらを抑えると逆に風邪が長引く恐れがあります。 風邪のようなウイルス性疾患に対し、むやみに抗生物質を使うことは抗生物質耐性菌の出現に繋がります。
ワンヘルス
もう一つ別の視点から考えてみたいと思います。
上は2016年の日本における抗菌薬の使用量の現状を示した図です。ちょっと古いデータなんですが、2016年に日本全体では1800トンの抗生物質が使用されました。 1800トンのうち、ヒトに使用した分が32.8%ですから、約1/3。残りの2/3はヒト以外の動物、農薬、および飼料の添加物として使用されました。動物というのは家畜や養殖魚、ペットなどです。家畜に使用しているのは治療薬というより予防薬としてです。感染症にならないように生まれたばかりの鶏、牛、豚に投与している分が多く含まれます。抗生物質は殺菌剤(農薬)として使用している分もあるんですね。飼料に抗生物質を混ぜると、与えた餌が肉になる割合(収率)が上がるので飼料添加物として使用する分もあります。因みに2016年に開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)において、抗菌薬の使用量を減らしましょうという合意がなされたので、今農薬や飼料添加物に使っている量は上のデータからはかなり減っていると思います。
ヒトに由来し発生した耐性菌は家畜やペットに伝播します。病原菌の多くが人畜共通であり、動物で発生した抗生物質耐性菌はヒトの世界に影響を及ぼします。人間の健康を考えるには、ヒトだけを対象とするのではなく、ヒトに加え動物や自然環境を含めて考えるべきだというのがワンヘルスの概念です。