- ✓バクテリオファージの投与方法
- ✓ファージセラピーの魅力
バクテリオファージの投与方法
この図はファージの投与方法をまとめたものです。
一番簡便な投与法は飲み薬です。治療対象は下痢、チフス、コレラなどです。
ピンクで示したのはプロバイオティクス。よく耳にする言葉ですね。
腸の環境をよくすることですか。
腸内環境を正常に戻して、健康を維持することで、俗な言葉でいうと、善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすことです。プロバイオティクスと乳酸菌が同一視されていますね。
そうですね。
乳酸菌以外に酢酸菌や酪酸菌でもいいと思うんだけど、乳酸菌はそれほど不快なニオイや味もしないので、プロバイオティクス=乳酸菌になっているのだと思います。ファージによって悪玉菌をコントロールすることもプロバイオティクスに含めて良さそうに思うのですが。
ネブライザーは溶液をミスト状にし、鼻から気道を通して、肺に噴霧する方法で対象疾患は結核や肺炎です。
それから塗布です。傷口や火傷の後の感染症、それからニキビなどが治療対象です。
中村さんはニキビってあります?
ありますね。
中村さんがお風呂に入って、シャワーをかけたときに水滴が皮膚表面にできません?
はい、できます
私は水滴ができずに、水が体一面に広がっちゃうんだけど。
なぜ若い人には水滴ができるかというと、若い人は皮脂と呼ばれる油分を毛穴から多く分泌しているからです。皮脂がくまなく皮膚を覆うと水をはじき水玉が出来るんですね。皮膚表面を覆う皮脂はバクテリアの防御にもなるんだけど、何らかの原因で毛穴の皮脂が目詰まりすると、皮脂を餌にするアクネ菌や表皮ブドウ球菌などのバクテリアが毛穴で増殖し炎症を起こします。なかなか治癒できないニキビの原因ですね。そういった場合、アクネ菌や表皮ブドウ球菌に感染するファージを含むローションを塗布することでニキビの原因を絶つことができます。
静脈注射や点滴で血管を通し全身に投与する方法は非常にハードルが高いと思います。ファージ自体が異物なわけだから、血流に直接投与すると、自然免疫とか獲得免疫によって、ファージを排除するような働きが起こると思います。
局所から直接投与する方法というのは、例えば肛門や尿道から投与するということです。対象としては大腸炎や尿道炎を引き起こす細菌のコントロールが考えられます。便移植って聞いたことあります?
名前は聞いたことあります。
腸内細菌が原因として例えば肥満や大腸炎を発症することが報告されています。そういったバランスの崩れた大便を正常に戻すということです。プロバイオティクスにより自力で治すということが出来ない場合は、健康な人の便を肛門から注入します。倫理的な問題があるから身内の大便じゃないと移植できない制約があるんですが。便移植と同じ発想で、炎症や肥満にかかわるいわゆる悪玉菌に感染するファージを肛門から投入する治療も考えられます。
便移植よりもローリスクで病気を治せるんじゃないかということですか。
便移植の場合、便に何が入っているか正確に分からないじゃないですか。病原菌とか病原ウイルスが入っている可能性もあります。一方で、ちゃんとターゲットとする菌が決まっていたならば、それに対するバクテリオファージを肛門から投入するのは有効だと思います。
ファージを口から入れると途中に色んな障壁があります。胃は強酸性ですから、経口投与したファージは保護してやらないと大腸まで届きません。肛門から入れる場合、カテーテルによって適切な位置に投与するのは可能だと思います。
となると応用としては、内服よりはニキビなど外用の方が難易度が低いということですか。
上手くいっている例としては、火傷による感染症がなかなか治らないケースで原因菌を特定し、原因菌に作用するファージを塗布することにより治ったという事例は幾つか報告されています。ファージを体内に投与する場合、排出、胃や消化液による分解、マクロファージ、好中球、抗体による排除が危惧されます。それらを回避するために投与するファージを固定化したり、カプセル化したりすることが検討されています。
ファージセラピーの魅力
ファージセラピーは生物の摂理に適った治療法と言えると思います。
ファージは、特定の宿主が選択的に増えることを抑える働きがあります。特定の宿主が病原菌や抗生物質耐性菌の場合、それらに感染するファージによって宿主をコントロールすることがファージセラピーの理念です。
ファージは無尽蔵な生物資源。容易に採ることができます。私が大学に在職していた時は学部2年生の学生実験でファージのスクリーニングをテーマにしていました。何しろ学生実験でやられるくらいですから、共通の装置と試薬があれば幾らでもファージを採ることができます。
一方でファージセラピーには解決すべき問題点が幾つかあります。その一つに治療に際しファージの選択が難しいことが挙げられます。ファージは感染する相手を厳密に見分けます。従って、一種のファージが適応できる細菌種は限られます。O157に効くファージは他の菌には効きません。原因菌を特定しないと適切なファージを選択することができません。解決策としては、複数種のファージを混ぜたファージカクテルを事前に用意しておくことが考えられます。
それからファージセラピーの制度的社会的受容が求められます。厚労省はそう簡単にファージを薬剤として認めなでしょう。ですから、ファージに対する制度的社会的な受容が求められます。
コロナ渦に対し日本は自前でコロナのワクチンも抗ウイルス薬も提供することが出来ませんでした。コロナ禍の轍を踏まないためにも抗生物質耐性菌に対する事前の備えを行う必要があります。
バクテリオファージは抗生物質が効かない疾患に対しても有望な解決策でありますし、より多くの方が悩むようなニキビであったり火傷であったり一般の悩みに対する解決策にもなり得るということで、魅力的な技術だと思います。
本日は「バクテリオファージの魅力と臨床応用に向けて」をテーマに早稲田大学客員上級研究員(研究院客員教授)の丹治保典先生にお話を伺いました。
ありがとうございました。