バクテリオファージとは

【丹治先生に聞く】バクテリオファージとは何か

2021.12.28

この記事の目次

  • ✓バクテリオファージの名前の由来
  • ✓バクテリオファージの形
  • ✓バクテリオファージの大きさ
  • ✓バクテリオファージのライフサイクル
  • ✓バクテリオファージの増殖スピード
  • ✓ファージの特長と役割

バクテリオファージの名前の由来

今回は私が東京工業大学で学生と一緒に研究した内容に基づき、ファージについてご紹介したいと思います。最初にファージという言葉があまり聞き慣れないと思うので、ファージの特徴を紹介した上で、ファージを上手に利用する例を紹介したいと思います。
まず名前はバクテリオファージ、これフルネームです。ファージ、ファージって言っています。フルネームのバクテリオファージは2つの言葉から成り立っていて、バクテリオとファージです。バクテリオというのはバクテリアですね。ファージはphagocytosis(貪食)のことです。だからバクテリアを貪り食うのがバクテリオファージです。

バクテリオファージの形

下の図は大腸菌に感染するT4ファージの構造です。頭と胴体から構成されています。
胴体の下には6本のテールファイバーがあり、長さは約200nmです。T4ファージはファージの原型(プロトタイプ)です。非常に魅力的な形をしていると思いませんか?

そうですね、非常に特徴的な形をしていますね。

月面着陸船に似ていますよね。かっこいいからファージの研究をしたいと私の研究室に来た学生がありましたが、確かに魅力的ですね。

こういった原型に対し、胴が短いもの、長いもの、胴がないもの、線状なものなど様々存在します。

バクテリオファージの大きさ

対象を理解するにはその大きさの感覚的認識が非常に重要です。我々の生きている世界はmとかcmです。1mの千倍は1kmという固有の単位があり、逆に1mの千分の一が1mm、1mmの千分の一が1μm、1μmのさらに千分の一が1nmです。と言われても実感がわかないでしょ。

そうですね。数字だけ言われても。

だから私は感覚的にイメージしやすいように、次に示す図を作りました。

大腸菌は幅が0.5μmくらいで、分裂直後の長さは1.5~2μmです。人間(高校生男子)の平均身長は約1.7m。北海道の稚内から鹿児島までの距離は1700kmです。バクテリアはμm、人間はm、つまりバクテリアと人間は千の千倍で百万倍の違いがあります。人間と日本列島も百万倍の違いがあります。手のひらには無数のバクテリアが付着しています。もし手のひらを倍率1000倍の光学顕微鏡でみると、1.7μmの大腸菌が1.7mmに見えます。これは東京にいる中村さんを人工衛星から拡大率1000倍の天体望遠鏡で覗くことと同じ感覚です。頭の上にいるバクテリアが足まで移動するのは鹿児島から稚内まで人間が移動するようなものです。

壮大な旅ですね。

T4ファージは長さが約200nm。バクテリアの約10分の1です。体積は1000分の1くらいです。ファージは可視光で見ることができません。可視光の波長は紫から赤まで400nm~800nmです。紫の波長が400nmだから、紫の可視光はファージ(200nm)を通過します。だからファージは光学顕微鏡で見ることはできず、電子顕微鏡で観察するのです。
では電子顕微鏡でしか見えないファージをどうやって数えるかということですが、簡単に数える方法があり、その方法をプラークアッセイといいます。

0.5%の軟らかい寒天にファージと宿主(感染する相手の菌)を一緒に混ぜ、1.5%の硬い寒天培地の上に流し込みます。もしファージがいたのならファージが宿主の増殖を抑え透明な斑点ができます。これをプラークといいます。1個のプラークは1個のファージに由来します。プラークの数を数えると、元々のサンプルの中にどのくらいのファージがいたかを知る事ができます。プラークフォーミングユニット(PFU)というのは、1mlのサンプルの中にプラークを作る能力のあるファージがどのくらいいるかを示す単位です。ファージの濃度はPFU/ml、1mlにプラークを作ることができるファージが何個存在するかで表します。

バクテリオファージのライフサイクル

T4ファージは6本のショートテールファイバーを持っています。
ショートテールファイバーは自分が感染する相手、T4ファージの場合は大腸菌を厳密に見分ける能力を持っています。T4ファージは、大腸菌の外膜に提示されるOmpCというタンパク質を厳密に見分けて吸着します。

狙った菌だけに感染するんですね。

はい、これはファージの非常に重要な特徴の一つです。

バクテリオファージの増殖スピード

ファージは菌に感染し、菌体の中で増えます。大腸菌は筒状ですが、ファージが中で増えると大腸菌が部分溶解し球状に変化します。そして大腸菌の中でファージが数十~200個くらい増えます。増えたファージの数をバーストサイズといいます。

感染実験をグラフに表すと、次のような図になります。1個のファージが1個の大腸菌に感染し中で増えるまでにかかる時間が潜伏時間です。約30分から1時間の潜伏期を経て、せっかくお世話になった宿主である大腸菌を内側からぶっ壊し(溶菌)、バーストサイズに相当するファージが外に放出されます。
これがファージの生活環、ライフサイクルになります。

この潜伏期間というのは菌によって時間が変わるのですか

ファージによって違います。それからファージは自分で増殖することが出来ません。宿主の機能を利用して増殖します。だから宿主が元気な時はファージも早く増殖します。それから菌によって分裂する時間が違います。だから増殖が遅い宿主はファージの増殖も遅くなります。ファージが中で増える量もファージと菌の組み合わせによっても違うし、宿主の状態によっても異なります。

ファージの特長と役割

ファージの特長と役割をまとめてみました。

ファージの特長と役割のまとめ

  • 1.爆発的な増殖速度
  • 2.厳密な宿主認識機構
  • 3.バクテリオファージは身近な存在
  • 4.食物連鎖の底辺を支えるファージ
  • 5.細菌叢のバランスを整える

1.爆発的な増殖速度

大腸菌などの細菌は1個の細胞が分裂し2個の細胞ができます。その後、2個が4個、4個が8個のように、2倍2倍2倍になりますね。だけどバクテリオファージは、もしも宿主が無限大に存在し、1個の宿主に1個のファージだけが感染し、ファージのバーストサイズが100だったらならば、1個のファージが100に増え、100が1万、1万が100万、100万が1億になります。だから宿主がいれば、爆発的な増殖速度が観察されるのです。

2.厳密な宿主認識機構

先ほど紹介しようにT4ファージは大腸菌、それも特定の構造を持っているOmpCがある大腸菌にしか感染できません。自分が感染する相手を厳密に認識できるのはファージを含むウイルス全般に言える特長です。

3.バクテリオファージは身近な存在

ファージは身近な存在です。中村さんの体の中にどのくらいのファージがいると思いますか?

そうですね、小さいので、数十万とかですか。

数十万?いや、単位が違う。単位は兆です。
間違いなく、何十兆、何百兆、もしかしたら何千兆いると思います。何千兆というのは言い過ぎかもしれませんが。バクテリアは共通の遺伝子を持っているから、共通の遺伝子を定量すればバクテリアの濃度を正確に測定することができます。しかし、ファージには共通する遺伝子がありません。宿主がわかっていれば、プラークアッセイで調べることができますが、宿主の種類は様々です。だから、様々なファージの数をプラークアッセイで測定することは出来ません。ファージはバクテリアの体積の約1000分の一です。したがって、ファージはバクテリアと同じくらいの数がいてもおかしくないし、もしかするとバクテリア以上にたくさんいるかもしれないです。ヒトの消化管には約100兆の細菌が存在していると言われます。細菌が100兆いるならば体積がその約1/1000であるファージは細菌と同数かそれ以上いてもおかしくないと思います。中村さんが一人では寂しいなと思ったら、自分の体内に潜む何十兆もの細菌やファージのことを考えると寂しさが紛らいませんか?あまり慰めにはならないか。

仲間が一杯…

そういうことですね。

4.食物連鎖の底辺を支えるファージ

生物の死骸や排泄物はバクテリアが分解し、それらの成分を土にかえします。増えたバクテリアを分解するのがファージです。ファージによって分解されたバクテリアの成分は再び他のバクテリアや植物の栄養源として食物連鎖に循環されます。

5.細菌叢のバランスを整える

最後の役割が宿主ポピュレーションの制御です。T4ファージにとっての宿主は大腸菌です。大腸菌に感染するファージは大腸菌にしか感染しません。そして一旦感染すると爆発的に増えます。それが宿主のポピュレーションを制御するということです。

つまりバランスをとるような役割ですか。

そうです。病原菌や抗生物質耐性菌がブワって増えるのをファージにより制御することがファージセラピー(ファージによる治療)の根本的な理念ですね。

ファージセラピーによって宿主、病原菌を制御した後、ファージはどこにいくんでしょう。

ファージにも寿命があって、宿主がいなければ、化学的または物理的に分解され土に帰ります。でも、ほんのちょっとでもファージが残っていて宿主が現れれば再び爆発的に増殖します。だから、ファージの生き死には非常にドラスティックですね。宿主がいなければバッと減るんだけど、ほんのわずかでも存在し宿主が現れれば、またすぐ増えます。人間の体にもファージの持つこのような不死身の機能が備わっていて獲得免疫のように病原菌や耐性菌が現れると機能するのではと考えられます。

つまりファージセラピーとしてバクテリオファージを使うと、問題となる病原菌は退治しますが、その後にファージが増えすぎて困るみたいな問題は起こらずに、問題だけを解決するということでしょうか?

溶菌ファージの場合はそうですね。
ただ遺伝子を伝播するファージがいて、そういうファージを溶原性のファージというのですが、溶原性のファージは治療に用いることは出来ないと思います。

このインタビューは動画でもご視聴いただけます

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